①発生頻度と発生機序 ASOにおける冠動脈移植は繊細かつ難易度の高い手技であり,冠動脈屈曲や冠動脈入口部狭窄による心筋虚血は術後早期のみならず遠隔期成績に重大な影響を及ぼす.近年,遠隔期の冠動脈閉塞や狭窄が多数報告されており,急性期死亡を除く冠動脈関連の死亡時期は術後1 年以内が多い473) .遠隔期に冠動脈造影あるいは大動脈基部造影を行った報告では,冠動脈病変は3.6~ 17.4%とされている425),427),430),449),474),475) .しかし,心筋虚血の徴候があるものでは40%に冠動脈狭窄病変がみられ,心筋虚血の徴候がないものでも7%に狭窄病変がみられたとする報告がある430) .また,症状のないものでも術後遠隔期のIVUS検査で89%の冠動脈に種々の程度の狭窄変化がみられたと報告されている476) . 冠動脈狭窄の発生機序としては,冠動脈ボタン吻合部の屈曲,冠動脈口あるいは主幹部の内膜損傷が原因となる.冠動脈病変としては冠動脈主幹部の求心性内膜肥厚を伴う線維細胞性の内膜増生であり,末梢側狭窄は希である.冠動脈走行様式としては,冠動脈壁内走行例,左右いずれかの冠動脈が大動脈と肺動脈の間を走行する例の発生頻度が最も高く,次いで単冠動脈,左冠動脈が肺動脈後方を走行する例の頻度が高い430),477),478) .冠動脈病変は進行性であると考えられている475) .②診断と再インターベンション適応 胸痛などの臨床症状や負荷心電図,心エコー検査で心筋虚血の徴候があるものでは厳重な経過観察と心筋シンチおよび選択的左右冠動脈造影が必須である.いっぽう,明らかな冠動脈虚血症状がない場合でも,冠動脈狭窄を除外できないことは留意する必要がある.さらに,冠動脈狭窄がないものでも,左冠動脈は正常冠動脈に比べ血管径が有意に細いこと,遠隔期の左室心筋潅流欠損の頻度が高いことが報告されており,注意深い評価が必要である449)-453) .ASO術後は非侵襲的冠動脈検査の感度は低く,成人例では冠動脈造影を含めた冠動脈評価を検討する(クラスIIb,レベルC). 心筋虚血症状を有するもの,もしくは検査で冠動脈狭窄に伴う虚血が確認されるものは再インターベンションの適応があると考えられる.適応となる冠動脈病変とし ては,左右冠動脈本幹の高度閉塞性病変と危険側副路状態であり,心筋梗塞の既往のあるものでは積極的に再インターベンションを検討する必要がある(クラスIIa, レベルC)479) .③術式選択と予後 経皮的カテーテル治療は有用であり,バルーン冠動脈形成術やステント留置が報告されている.経皮的治療ができないものには外科治療の適応を検討する.外科手術としては,冠動脈バイパス手術や冠動脈入口部パッチ形成術などが報告されている479)-485) .ASO術後の冠動脈狭窄に対する再侵襲的治療の経験は限られており,長期的予後は現在のところ不明である.
4 冠動脈閉塞・狭窄
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)