①発生頻度と発生機序 術後の右室流出路狭窄は3~ 30%と比較的高頻度に認められる術後続発症である423)-437),463),464)-467) .狭窄部位としては,肺動脈弁および弁下,吻合部(弁上部),主肺動脈,左右末梢肺動脈に単独あるいは複合して発生する.狭窄の発生原因としては,肺動脈前方移動(Lecompte法)による大動脈の後方からの圧迫と左右肺動脈の過伸展,肺動脈再建に用いるパッチの肥厚・退縮,肺動脈弁輪部および吻合部の成長障害,小口径の旧大動脈弁などが考えられている.ASOにおける肺動脈狭窄発生はある程度不可避な合併症であり,その発生頻度は経年的に増加し,狭窄の程度も進行することが知られている.多施設共同研究によると,新生児ASO遠隔期の右心系狭窄に対する外科的あるいは経皮的再治療施行率は12%で,累積回避率は術後1年で94%,10年で83%と報告されている467) .②経過観察と再侵襲的治療の適応 臨床症状と心エコー検査で定期的に経過観察を行う.通常の右室流出路狭窄では,右室の代償機転により比較的長期にわたって無症状に経過し右心機能も正常に維持されていることが多い.一側肺動脈狭窄例では有意の右室圧上昇が見られないことがある.軽症では運動耐容能や心機能は正常であるが,重症例では比較的早期に有意の心拡大や右室機能低下,心室期外収縮が出現する可能性がある.動悸,労作時呼吸困難,肝腫大などの右室流出路狭窄による症状出現に留意しつつ,心エコー検査による右室機能,運動負荷試験,肺血流シンチによる左右肺動脈血流分布の評価が必要である468) . 軽度の右室流出路狭窄で右室拡大がない無症状例は軽度リスク群であり,1年ごとの定期検査を検討する(レベルC).中等度の右室流出路狭窄で右室拡大を認める例は中等度リスク群であり,6~ 12か月ごとの右室機能評価を検討する(レベルC).右室流出路狭窄や右室拡大が無くても安静時ならびに運動誘発性期外収縮を認めるものは,6~ 12か月ごとの右室機能評価を検討する(不整脈の項を参照のこと).高度の右室流出路狭窄(PG≧50mmHgあるいはRVP/LVP≧ 0.7)で,経皮的カテーテル治療が無効なものでは手術適応を検討すべきである(レベルC).高度の右室流出路狭窄でなくても,妊娠を希望する患者,より高度の運動を希望する場合,高度の肺動脈逆流を伴う症例では手術を考慮してもよい.右室流出路に対する再侵襲的治療前には,冠動脈の評価が必要である(クラスIIa,レベルC).③術式選択と予後 外科的解除法としては,パッチによる肺動脈拡大が行われ,狭小弁輪例に対しては弁輪拡大が適用され,肺動脈狭窄再発率は低い(クラスIIa,レベルB)425),463),464) .一方,経皮的アプローチのバルーン拡大術の成功率は外科治療より低いが,非侵襲的で繰り返し行える利点がある(レベルB).バルーン拡大後の狭窄病変部は身体発育に応じて成長することが報告されている469)-471) .ステント留置法とバルーン拡大術の比較では472),狭窄部拡大率,圧較差減少率,右室/大動脈圧比低下率はステント使用例が良好であったと報告されている(レベルC).狭窄部位や形態により両者の選択を検討すべきである(レベルC).
3 右室流出路狭窄
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)