2 大動脈弁閉鎖不全,大動脈基部拡大
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①発生頻度と発生機序

 ASO術後遠隔期の大動脈弁閉鎖不全(AR)の発生頻度は5 ~ 40%と報告されている.弁逆流の程度は軽度のものが35%と大部分を占め,中等度以上の逆流は5%前後にみられる.弁逆流は経年的に増強することが指摘されている437)-443)

 ARの発生機序については,解剖学的肺動脈弁は大動脈弁に比べ弁尖が菲薄でコラーゲン線維や弾性線維が少ないこと,解剖学的肺動脈壁および弁輪の構造的脆弱性による新大動脈基部拡大などの内的要因の関与が大きい430),443)-445).外的要因としては,経肺動脈的VSD閉鎖に伴う弁損傷446),先行手術としての肺動脈絞扼術,術前の左室流出路狭窄の存在,冠動脈移植に伴うバルサルバ洞の変形,新大動脈基部と大動脈遠位部の口径差がARおよび大動脈基部拡大の発生と関連するとされる429),436)-444),446,447)

②経過観察と再侵襲的治療の適応

 基本的には臨床症状と心エコー検査で経過観察を行う.通常の慢性ARでは,左室の代償機転により比較的長期にわたって無症状に経過し,左室機能も正常に維持されていることが多い448).しかし,ASO術後例ではAR合併がない症例においても遠隔期の左室心筋潅流欠損や冠血流予備能低下することが報告されている449)-453).ASO術後における中等度以上のAR合併例では,比較的早期に有意の心拡大や左室機能低下が出現する可能性があることを念頭におく必要がある.胸痛,動悸,失神,労作時呼吸困難などのARによる症状出現に留意しつつ,運動負荷試験や心エコー検査による左室機能の継続的評価が必要である.

 軽度のARで左室拡大がない無症状例は軽度リスクであり,12か月ごとの定期検査を行う.中等度のARで左室拡大を認める例は中等度リスクであり,選択的冠動脈造影検査による冠動脈狭窄の有無や6~ 12か月ごとの左室機能評価を検討する.左室拡大がなくても,安静時ならびに運動誘発性期外収縮を認める場合は中等度リスクと思われる.左室拡大の進行がなければ,中等度の運動までの許可を検討する.ARに伴う狭心痛や呼吸困難などの自覚症状を伴う症例は高度リスクであり,手術適応を検討する(クラスIIa,レベルC)454),455).特に他の遺残病変を伴うASO術後の高度AR例では,厳重な定期的臨床評価が必要である.

 新大動脈基部拡大は,ASO術後比較的早期に急速に進行する.大動脈基部拡大が高度な場合(成人例では基部径55mm以上456))は手術を検討する(クラスIIa,レベルC).

③術式選択と予後

 ASO術後のARに対する再手術としては,通常弁置換術(AVR)が行われる(クラスIIa,レベルC)447),457)-459).AVRにおける代用弁としては機械弁と生体弁に大別されるが,現時点においてASO術後例は大多数が非高齢者であり,機械弁が選択されることが多い.大動脈基部拡大を伴う中等度以上のARに対してはBentall術が行われる.ARが軽度以下の大動脈基部高度拡大例(基部径55mm以上)に対しては弁温存基部置換術(David術)が可能なこともある460)-62).ASO術後のAVRの遠隔成績は比較的良好である447)
Ⅱ 各論 > 2 完全大血管転位:動脈スイッチ術後 > 2 大動脈弁閉鎖不全,大動脈基部拡大
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)