5 術後の合併症への対応
 TOF心内修復術後は,新たな病態が生じるとも言われているが,残存している疾患をも含めて,肺動脈弁閉鎖不全,三尖弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全,右室流出路狭窄,心室および心房不整脈,心室機能障害,細菌性心内膜炎などがみられる.このほか,大動脈拡張を認めることがある(「総論6 大動脈拡張」の項を参照のこと)

①肺動脈弁閉鎖不全


 心内修復時に肺動脈弁切開や肺動脈弁輪切開を施行すれば,程度の差はあるが肺動脈弁閉鎖不全がみられる.術後例の60%から90%に肺動脈閉鎖不全が認められるとされるが347),カラーフローマッピングやパルスドプラで評価すれば,一部を除いて大半の症例で閉鎖不全がみられる.また,閉鎖不全による右室拡大や右室機能低下については,小児期後期あるいは思春期に心内修復術を受けた患者に問題が多い.このほか,大きな右室切開や広範囲の肺動脈弁輪拡大術が実施された場合も,閉鎖不全による影響が大きくなる.肺動脈弁閉鎖不全により右室拡張が進行すると容量負荷が過大となり収縮不全が生じる348).小児期青年期は無症状で経過することが多いが,術後20年を経過した成人期には運動耐容能の低下や心不全,不整脈などが出現し,死亡に至ることもある137),244),349)-351)

 TOF心内修復手術後の成人期に施行した肺動脈弁置換手術の死亡率は低い352)-355).しかし肺動脈弁置換術で一般に使用される生体弁は,数年から10年程度で弁の石灰化のために狭窄や閉鎖不全が生じることが多く再手術が必要になる12),352).適切な時期に肺動脈弁置換手術を施行すれば右室容積は減少し,右室機能の改善が得られる352),356)-359).NYHA心機能分類は改善するが352),360),運動耐容能の客観的改善は未だ明確ではない355),361),362).心室頻拍や突然死のリスクは肺動脈弁置換のみでは減じないとする報告もある363),364)

 右室容積や右室機能の計測,肺動脈逆流の定量的評価,心筋障害などの検査法としてはMRIが優れている365)-370).右室拡張末期容積が150~ 170mL/m2未満または右室収縮末期容積が82~ 90mL/m2未満であれば肺動脈弁置換後に右室容積は正常化すると報告されている358),371)-373).CTは空間解像能が高くMRI と同様な計測も可能で,人工ペースメーカやICDを使用している患者にも施行可能であるが,放射線被爆ならびに造影剤使用が欠点である374),375)

 現時点における肺動脈弁閉鎖不全に対する肺動脈弁置換術の適応は,重度の肺動脈逆流があり,かつ以下のいずれかの項目を認める場合と考えられる.すなわち,
右心不全症状や運動耐容能の低下(クラスI,レベルB)334),376),377)中等度以上の右室拡張や右室機能不全(クラスⅡa,レベルB)334),376),377)進行性で有症状の心房または心室不整脈がある(クラスⅡ a,レベルC)334),376),377).肺動脈弁置換術の至適時期については様々な意見があり,未だ統一的見解は得られていない.

 右室流出路に心外導管を用いた手術において,海外では経皮的肺動脈弁置換術が臨床導入されて良好な成績を収めており,TOF術後例の肺動脈弁閉鎖不全に対する今後の発展が期待される378)-380)

②右室流出路狭窄

 心内修復後に重度の残存狭窄がみられる症例では,右室の圧負荷によって右室心筋の線維化が進行する.また,狭窄解除によって右室機能が改善すると報告されている381).したがって,右室収縮期圧が左室の70%を超えるか,右室流出路の圧較差が50~ 60mmHg以上あれば,外科手術やカテーテルインターベンションによる狭窄解除が推奨される(クラスⅡa,レベルC)334),376),382).狭窄解除の基準については,右室収縮期圧が左室の1/2ないし2/3以上か,狭窄部の圧較差が20から30mmHg以上を適応とする報告もある383)

 片側性の末梢肺動脈狭窄は,心内修復術後にしばしば認められる.この場合はカテーテルインターベンションを実施することが少なくないが,肺血流シンチによる患
/健側肺血流比が0.4未満であれば施行を検討する(クラスⅡb,レベルC)384).両側の肺の不均衡が35%/ 65%以上であれば適応とする見解もある383).カテーテルインターベンションの手技として,バルーン肺動脈形成術またはステントを使用した拡大術を検討する(クラスⅡb,レベルC)385)-396)

③不整脈

 Silka MJ らの報告によると,TOF心内修復術後例の突然死は年間1,000人当たり1.5人である137).突然死と関係のある心室性不整脈が相当認められる( レベル
B)244),385)-404).術後例では,44%に心室不整脈がみられ,発生率は高年齢で手術を受けたことと関連があり,経過観察期間や術後の血行動態,また手術を施行された年代とは無関係である405).TOF患者の術後遠隔期における突然死の発生頻度は5%とされてきたが,幼児期や乳児期の手術例では1%以下あるいは稀であり406),407),年間当たりの突然死は0.35%との報告もある408)

 180msec以上のQRS時間が認められれば,持続型単形性心室頻拍は誘発されやすいと報告されているが409),Gatzoulisらは脱分極および再分極の異常が術後の心室頻拍と関係し,180 msec 以上のQRS時間やQT時間の延長などが絡んでリスクを増しているとしており410),Berul CI はQRS時間延長とJT dispersionの増加が突然死の予想しうる指標であると述べている411).しかし,Hokanson JSの288例の検討では,180 msec 以上のQRS時間と突然死との関連は認められなかった412).術後3日を超える一過性房室ブロックの既往が,突然死と強い関連があるとの報告もある412).Late potentialと心室不整脈の関係が指摘されたが,突然死の予想因子とはなっていない413).TOF心内修復術時の経心房心室中隔欠損閉鎖が,致死性不整脈や右室機能不全を減少させるとの報告があり414)-416),上室不整脈を増加させることもないとされる416)

 我が国における多施設共同研究では,ペースメーカを装着されていない完全房室ブロックと心室頻拍が遠隔期の主要な予後増悪因子であったが,欧米に比して重大な不整脈の発生率は低いと報告されている138)

 TOFの術後例の突然死を一つの指標で予想することは困難であるが,高度の右室流出路狭窄,重度の肺動弁閉鎖不全の存在は心室不整脈を発生しやすくし,中程度以上の左室機能不全または右室機能不全は突然死を引き起こす可能性がある403),417),418).したがって,中程度以上の左室機能不全または右室機能不全があり,かつ心室不整脈がある場合は,抗不整脈薬の投与,電気生理学的検査,カテーテルアブレーションなどを検討すべきである(クラスⅡ a,レベルB)385)-396).特に持続性心室頻拍や心停止が確認された例ではICDを考慮する必要がある(クラスⅡ a,レベルB)140),176),334),376),377),419)

 以上に関しては,「総論4 不整脈」の項も参照されたい.

④大動脈弁閉鎖不全

 TOF患者は,術前術後を通じて大動脈弁輪径が一般に大きい.また,年齢が長じるにしたがって,大動脈弁閉鎖不全の合併が増加するといわれる194).心内修復術後における大動脈弁置換術の明確な基準はないが,通常の大動脈弁閉鎖不全に対するガイドラインなどを参照して検討すべきである420)

⑤感染性心内膜炎

 TOF術後例について,30年間にわたる長期観察期間中の感染性心内膜炎発生率の検討では,1.3%の患者が罹患した421).2007年に改定された感染性心内膜炎予防についてのAHA/ACCのガイドラインでは,先天性心疾患術後の症例において内皮で覆われない人工膜や人工物の近辺に遺残病変が存在する場合は,歯肉組織,歯根部,口腔粘膜穿孔などの歯科処置や,気道のほか感染した皮膚,皮膚組織及び骨格組織に対する手術手技の施行時に,抗菌薬の内服や静注による感染性心内膜炎の予防処置を行うことが推奨されている(クラスⅡ a,レベルC)422).TOF術後は,内皮で覆われない人工膜や人工物を使用している場合があり,肺動脈弁閉鎖不全,右室流出路狭窄,残存心室中隔欠損などの合併によって,ガイドラインで高いリスクがあるとされている病状にあてはまる患者が多い.
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先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)