4 術後の管理
人工弁植込み術後の患者については,通常の弁置換術後の管理を行う必要がある.すなわち機械弁の種類に応じた抗凝固療法の継続と,定時的な心エコーによる弁機能ならびに心機能の評価である.Ross術後は,ホモグラフトを右室流出路に用いていれば抗凝固療法は不要となるが,右室流出路再建に人工物の心外導管を用いた場合は,ワルファリンによる抗凝固療法を術後一定期間検討するのもよい. ①抗凝固療法 機械弁を用いた大動脈弁置換術後は,成人期と同様のワルファリン投与を行う.一般に心房細動や過去の血栓塞栓症の既往,高度心機能低下例ならびに何らかの過凝固状態などのリスクファクターを有しない症例において,機械弁を用いた場合はINR 2.0~ 2.5を目標としてワルファリン投与を行う場合が多い.さらにワルファリ ンに少量アスピリン(75~ 100mg/day)を追加することを推奨する報告もある846) .また前述のリスクファクターを有する例においては,INR 2.0~ 3.0を目標とする ことが多い.ただし,日本人におけるPTINRコントロールは,出血性イベントの検討からリスクファクターのない症例では1.5~2.5が望ましいとした報告847) もあり, 今後エビデンスに基づいた日本人の至適コントロール域に関する検討が必要である.生体弁を用いた大動脈弁置換術は,3 か月以降でリスクファクターがなければ75~100mg/dayのアスピリン投与を検討するが,ワルファリンは不要である.前述のリスクファクターを有する場合は,INR 2.0~ 3.0を目標に生涯ワルファリン投与を検 討する(クラスⅡ a,レベルB)46),848)-860) .②弁機能評価 弁置換術後も,定期的な心エコーによるフォローが必要である.小児例においては,成長とともに人工弁の相対的狭窄を来たすため,いっそう心エコーによる弁機能 評価のフォローを要する.また,人工弁,特に機械弁は,パンヌス形成や血栓などにより術後弁機能不全を生じうる.特に生体反応の強い小児例においては,成人例に比べパンヌス形成が特徴的であり,その形成速度は速い.ワルファリンによる坑凝固療法を行っていても機械弁における血栓塞栓症のリスクは1~ 2 % /yearとさ れ32),861),862) ,またワルファリンを使用しない生体弁においても血栓塞栓症のリスクは0.7% /yearである.生体弁は機械弁に比べ,石灰硬化や弁破壊などの構造劣化に伴う狭窄病変ならびに逆流性の病変が経年的に進行し,ウシ心膜生体弁の10年再手術回避率は92.4%,構造劣化回避率は97.1%である863) . Ross術後は,移植した自己肺動脈弁機能は良好であるが863) ,時に大動脈弁輪拡張に伴う大動脈弁逆流を生じる症例を認めるため862),865)-869) ,再建した右室流出路の評価と共に定期的なフォローが推奨される(レベルC).
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)