①機能不全 弁の破壊や開閉障害の発生時には急性左心不全症状が生じるが,最近用いられている二葉弁では一弁葉が動かなくても臨床的には把握できないことが多く,弁葉の動きが心エコー検査で不明瞭な場合には,X線透視で弁葉の開放角度を確認する必要がある.弁葉の可動制限が確認されれば,ほぼ全例に対して再手術が推奨される(クラスⅡa,レベルC)再手術は回数が多くなるほどまた左心機能低下例ほど危険率が上昇する870) . 血栓弁に対し線溶療法が施行された報告があるが,血栓塞栓症の合併も多いため(12~ 15%に脳梗塞の発生),大動脈弁位の血栓弁においては無症状の小血栓症例または再手術自体の危険性が非常に高い場合にのみ限定し,かつ塞栓症の危険性を想定して行うことを検討する(クラスⅡb,レベルC)871)-874) . Ross 術後の大動脈弁輪拡大に伴う大動脈弁閉鎖不全は,毎年心エコーにて評価を行い,後述の通り一般的な大動脈弁閉鎖不全に準じて再手術を検討する(クラスⅡa,レベルC).②人工弁相対的狭窄 小児患者の発育による人工弁の相対的狭窄に対する再手術時期については,まだ確立された適応基準はない.大動脈弁置換術後には,カテーテル検査による圧較差測定はできないので,一般には心エコー検査による圧較差推定と左室心筋肥大の程度及び胸痛・労作時呼吸困難などの自覚症状からの再手術検討が推奨される(クラスⅡa,レベルB)875),876) .③右室流出路狭窄 Ross 術の際に同時に施行された異種・同種心膜などを用いた右室流出路再建後の右室流出路狭窄においては,他の疾患と同様に安静時の右室流出路の総圧較差50mmHg以上,労作時呼吸困難,狭心症,失神前駆症状または失神などの症状がある場合は,カテーテル治療または再手術を検討する(クラスⅡa,レベルC).④大動脈弁閉鎖不全 海外の報告では,成人の術後患者が単独大動脈弁閉鎖不全による症状がある場合,または無症状であっても左室駆出率が50%以下の左室収縮能低下例,左室拡大があり心エコー検査にて左室拡張末期径が75mm以上または左室収縮末期径が55mm以上の症例には,大動脈弁置換術が推奨されている(クラスⅡa,レベルB)46) が,可能な症例では大動脈弁形成術も検討する(クラスⅡ a,レベルC).⑤人工弁感染 人工弁感染の手術適応は自然弁心内膜炎と同様に,1.心不全,2.塞栓症,3.制御困難な感染であるが,高い非手術死亡率を考慮すると積極的な加療を検討すべきである(クラスⅡ a,レベルC).ブドウ球菌ことに黄色ブドウ球菌は膿瘍形成を来たす傾向が強い強毒菌である.この菌が検出された場合は,ただちに再手術を検討する必要がある.弁輪膿瘍の形成,リークの発生,疣贅の形成などが認められた場合にも,積極的に再手術を検討する(クラスⅡ a,レベルC)46),877) .⑥大動脈弁下狭窄再発 大動脈弁下狭窄は,解除後の再発率が約20%であり,再手術回避率は15年で85%とされる.このため,狭窄解除術後も心エコーなどにより定期的なフォローを行 い,圧較差の増強または症状の出現がみられれば再手術を検討する(クラスⅡ a,レベルC).
5 術後合併症への対応
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)