3 外科手術
 大動脈弁狭窄では,相対的及び絶対的に大動脈弁輪径が小さく,新生児期より重篤な症状を呈し,カテーテルによるバルーン弁形成が不十分と思われる場合には一般的に交連切開術が行われる.小児期には通常の人工弁置換は困難であり,幼児期・学童期では今野術824)などのパッチを使用した弁輪拡大を併用する術式を用いた人工弁置換が必要になることが多い.大動脈交連部癒合による大動脈弁狭窄には,交連部切開のみを加えることもある.人工弁には大別して機械弁と生体弁があるが,弁機能・耐久性・抗血栓性などのすべての面で理想的な弁が未だ開発されていないのが現状である825)

 自己肺動脈弁を用いた大動脈基部置換術(Ross 術・Ross-Konno術)826)-832)は,弁機能が良好であり,小児例でも術後の成長が期待できて術後の抗凝固療法も不要のため,乳児の重症大動脈弁狭窄を含めて乳児期から若年成人例までの術式として検討することがある(レベルC)が,肺動脈弁を切除したあとの右室流出路再建に対して同種肺動脈弁を確保しにくい我が国では問題があり,これに代わるものとして,ゴアテックスなどの人工物や異種心膜・有茎または遊離自己心膜などを用いた右室流出路再建が行われる833)-837)

 大動脈弁下狭窄では,弁下組織の切除と心筋切開・切除を行う.また大動脈切開と右室切開を行い,さらに心室中隔に切開を加える今野術変法を行うこともある838).弁上狭窄に対しては,補填物を用いる場合と自己組織のみで拡大を行う術式のほか,人工血管を用いた狭窄解除術を行うことがある.

 大動脈弁閉鎖不全では,弁形成を検討する症例もあるが,狭窄と同様に弁置換を行うことが多い(クラスⅡa,レベルB)が839)-844).大動脈弁輪径が狭窄症に比べ相対的に大きいため弁置換術の適応範囲は幾分広い.またRoss術も同様に適応可能であり,弁輪拡大を伴っている場合には,自己肺動脈弁輪径とほぼ同サイズまで弁輪縫縮を行った上での実施を検討する(クラスⅡ a,レベルC).

 心室中隔欠損に合併した大動脈弁尖逸脱に伴う大動脈弁閉鎖不全は,軽度のものであればパッチによる中隔欠損孔閉鎖のみで対処可能であるが845),中等度以上のものについては大動脈弁形成または弁置換術を検討する(クラスⅡ a,レベルC).
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先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)