1.肺高血圧(肺血管閉塞性病変)
2.流出路狭窄(大動脈弁高度狭窄)
3.心不全(心機能分類Ⅲ度以上,LVEF <35~40%)
4. マルファン症候群,大動脈拡張疾患(大動脈拡張期径>
40mm)
5.機械弁置換術後
6.修復術後チアノーゼ遺残疾患(酸素飽和度:<85%)
7.Fontan術後
(文献181,296-298)(レベルC)
3 妊娠・出産がハイリスクと考えられる疾患
(表11)
 妊娠を避けた方が良いと考えられるハイリスク疾患181),296)-298)は,胎児にとってもハイリスクである299).これらの疾患では,妊娠中や出産後に心不全,不整脈,血栓塞栓,大動脈解離等の合併症を生じる可能性がある(レベルB)296),298),299).ハイリスク心疾患では,妊娠の中断か,可能な限り妊娠前の疾患治療(再外科手術,カテーテルインターベンションなど)を行うことが推奨される(クラスⅡa).妊娠中の手術,カテーテル治療は,大きな危険を伴う181),294).したがって,母体の病態が悪化した場合,30週以降は早期出産を考慮する181)

①疾患別の特徴

1)非チアノーゼ型先天性心疾患術後

 良好に修復され,遺残症(特に肺高血圧)や続発症の程度が軽い場合は,遺伝の問題を除けば一般と同様に妊娠出産,経腟分娩が可能である(レベルC)300).しかし,低出生体重児出産の比率が高い300).また,術後に中等度以上の遺残病変,続発病変があり,妊娠中に悪化することが予想される場合は,再手術,カテーテルインターベンションなどで,妊娠前に治療しておくことが推奨される181).高度の肺高血圧合併は,妊娠,出産時の危険度が非常に高い(レベルC)301),302)

 心房中隔欠損,心室中隔欠損,動脈管開存術後は,遺残症や肺高血圧症が無く,心機能分類が良好であれば,妊娠によく耐容し,母体と胎児の予後は良好である(レベルC)300).房室中隔欠損術後では,通常,妊娠出産は合併症なく経過するが,心不全,出産後早期の弁機能不全,脳血栓,心内膜炎発症が報告されている.心不全,体心室機能不全,高度三尖弁閉鎖不全を認める場合は,妊娠出産は難しい(レベルC).高度三尖弁閉鎖不全では,妊娠前に三尖弁置換術(生体弁)を検討する(クラスⅡb,レベルC).妊娠時に不整脈を発症することがある303).房室弁逆流に対して抗心不全治療を行う場合があるが,アンジオテンシン変換酵素阻害薬/受容体拮抗薬は妊娠中の投与を避けるべきである(レベルB)304)-306)

 肺動脈弁狭窄,大動脈弁狭窄術後は,重度の弁狭窄残存や再狭窄の頻度は低く, 高度狭窄遺残で症状を伴う場合は,妊娠前の修復あるいは経皮的バルーン肺動脈弁形成術が推奨される(クラスⅡa)307).Ross 術後は,大動脈二尖弁や大動脈縮窄と同様に,妊娠による大動脈壁組織の変化が元来あった壁異常を助長するため,大動脈拡張の進行に注意を要する308)

エプスタイン病術後:右心機能が悪く,右室拍出量が少ないため,妊娠中の容量負荷時に右房拡張を生じ,上室不整脈や右心不全悪化を起こすことがある.WPW症候群による上室頻脈も,妊娠時,心不全を増悪させる.妊娠前の心機能分類が良好であれば,妊娠に耐容し母体の心合併症は少ないが,流早産率が高い(レベルC)309).修正大血管転位術後:体心室が形態学的右室で三尖弁はエプスタイン様形態異常を伴うことが少なくない.右室機能低下が年齢とともに進行し,三尖弁逆流の出現増悪が心機能低下を悪化させる310).完全房室ブロックの合併頻度が高い.

 原則的に,妊娠前の心機能分類が良好であれば,ペースメーカ植込み後でも,妊娠によく耐容する(レベルC)310),311)

 三尖弁置換術後は,日本循環器学会,心疾患患者の妊娠・出産の適応管理に関するガイドライン181)を参照されたい.

大動脈縮窄術後:大部分の患者は,母児ともに,安全な妊娠出産が可能である312).上行大動脈拡張,大動脈弁狭窄遺残,大動脈弁閉鎖不全などが合併することがある.有意な狭窄がなくとも,妊娠中に高血圧が持続することがあり,定期的な血圧測定が必要である.大動脈拡張,瘤形成を起こすことがあり,大動脈径の観察は重要である.

 妊娠中の内科治療は安静と高血圧治療が中心となる.大動脈拡張の進行を予防するため,βブロッカーを使用することもある(クラスⅡb,レベルC)313).硬膜外
麻酔による無痛経腟分娩で危険なく出産が可能である(レベルC)312)

機械弁置換術後:日本循環器学会,心疾患患者の妊娠・出産の適応管理に関するガイドライン181)を参照.

2)チアノーゼ型先天性心疾患術後

 ファロー四徴術後だけではなく,完全大血管転位術後,Fontan術後など複雑先天性心疾患に対する術後患者の妊娠出産も行われることがある.

ファロー四徴術後:ほとんどの場合,妊娠出産が可能である(レベルC)314),315).軽度から中等度の肺動脈狭窄・肺動脈弁閉鎖不全では,妊娠出産リスクは低い.しかし,高度右室流出路狭窄遺残,高度肺動脈弁閉鎖不全,右室機能不全を伴う場合は,右心不全の増悪,上室頻拍,心室頻拍を生じることがある(レベルC)302),314).妊娠前に手術治療を行うことが勧められる(レベルC).中等度以上の大動脈弁閉鎖不全,大動脈拡張(直径40mm以上),左室機能不全(駆出率:40%以下),頻拍型不整脈の既往は,妊娠危険因子である(レベルC)314)-316).心機能分類Ⅱ以上の場合は,妊娠中の不整脈,出産後の心不全の合併率が高い(レベルC)314)-316).胎児リスクはやや高く,一般と比べると,流産率が高い314)

Fontan 術後
:妊娠前に,妊娠可能かどうかの評価を十分に行う必要がある.妊娠中,心室,心房の容量負荷が増大し,凝固能も亢進するため,上室頻拍,体心室房室弁逆流の増悪,心不全,血栓が生じやすく,母児ともにリスクが高い(レベルC)317)318).Fontan術後の妊娠出産は,高リスクではあるが,心機能分類Ⅰ~Ⅱ度で,心機能が良好かつ,頻拍性不整脈の既往がなく,出産希望が強ければ,妊娠・出産を容認できる場合がある.しかし,容認した場合も,可能なかぎり経験のある施設での出産を検討する.また,流産を高頻度に認め317),318),不妊率が高い318)

完全大血管転位術後:心房位血流転換手術(マスタード術あるいはセニング術後)は,右房血流と左房血流を転換し右室が体心室を担うため,右室が後負荷(体血圧)に加え妊娠時の容量負荷に耐え得るかが妊娠のリスクを決める.体心室機能が良好で,遺残病変が軽度の場合は,妊娠のリスクは高くはない(レベルC)318)-320).右室(体心室)機能,遺残肺高血圧,洞調律維持の有無,不整脈が妊娠・出産危険因子である.妊娠中や出産後に右室機能不全,三尖弁逆流増大,心房細動を含む上室頻拍,洞機能不全が起こることがある.胎児生命予後は良好であるが,早産,低出生体重児がやや多い(レベルC)318)-320)
アンジオテンシン変換酵素阻害薬/受容体拮抗薬は,重篤な胎児腎障害を生じるため,妊娠前に中止しておくべきである.

 動脈スイッチ術後(arterial switch operation)は,心機能がよく,不整脈も比較的少ないが,肺動脈狭窄,肺動脈弁閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全,冠動脈狭窄・閉塞による虚血性病変が危険因子となる可能性がある.

 Rastelli術後の妊娠出産は少ないが,心機能がよく右室流出路狭窄が高度でない場合は,妊娠出産のリスクは高くない.高度右室流出路狭窄の場合は,右室機能不全,心室頻拍,心房細動を含む上室頻拍を生じる可能性が高く,妊娠前に再手術による修復が推奨される.妊娠前に右室流出路導管狭窄,肺高血圧,右室機能の評価を十分に行う必要がある.

修復術後チアノーゼ残存先天性心疾患:妊娠中は,体血管抵抗が低下するため,チアノーゼが増悪する322),323).酸素飽和度85%以下では生産児を得られる確率は非常に低い323)
表11 妊娠の際,厳重な管理を要する心疾患
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Ⅰ 総論 > 9 妊娠・出産 > 3 妊娠・出産がハイリスクと考えられる疾患(表11)
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)