2 術後遠隔期大動脈拡張の管理
Marfan症候群は,大動脈拡張予防にベータ遮断薬が使用され,一定の拡張抑止効果がある(レベルC)205),206) .先天性心疾患も,Marfan症候群と同様の大動脈壁異常を認めるが,β遮断薬の予防投与の有効性は確立していない. TGF(transforming growth factor)-β の拮抗薬であるangiotensin II type 1 receptor blocker(ARB; ロサルタン)が, Marfan症候群の大動脈拡張病変の修復効果を認めるとの動物での報告207)がなされた. このため,ヒトでも有効性があると推定され208) ,現在,β 遮断薬であるアテノロールとの大規模比較試験が進行中209) で,この有効性が認められればARBが今後使用される可能性がある. Marfan 症候群は,大動脈径が40~ 50mm以上,あるいは継続的拡張が認められる場合に,人工弁と人工血管を組み合わせたComposite graftを用いるBentall手術,あるいは自己弁温存大動脈基部置換術(David 法,Yacoub法)を行う(クラスⅠ,レベルC)210)-212) . 小児期に施行したRoss 手術後(多くは,大動脈二尖弁)は,術後遠隔期でも大動脈径が増大するため,長期間の観察が必要である213),214) .チアノーゼ型先天性心疾患修復術後の大動脈拡張例での大動脈形成術の施行基準はないが,成人先天性心疾患管理ガイドラインでは,大動脈径が55mmを超えた拡張が認められる場合に,大動脈置換術・形成術が推奨されている(クラスⅡa)210) .将来,経皮的大動脈ステント治療が行われる可能性がある. 左心低形成症候群,完全大血管転位動脈スイッチ術後,Fontan術後も,大動脈弁閉鎖不全,大動脈拡張が認められている( レベルC)195),196),215) .これらのチアノーゼ型先天性心疾患でも,加齢とともに,大動脈拡張,大動脈弁閉鎖不全が増悪する可能性があり,注意深い観察を行う必要がある.
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)