大動脈二尖弁(ROSS手術後も含む)
大動脈縮窄
総動脈幹
肺動脈狭窄/閉鎖,心室中隔欠損を伴うチアノーゼ型先天性
心疾患
 ファロー四徴
 両大血管右室起始
 完全大血管転位
 単心室
 Fontan術後
左心低形成症候群
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1 大動脈拡張の頻度,成因
 先天性心疾患は,大動脈が拡張し,時に瘤,解離,破裂を生じたり,高度の大動脈弁閉鎖不全を合併したりすることがある192).Marfan 症候群は,弾性線維の断裂・消失を特徴とするいわゆる大動脈中膜嚢胞状壊死“cystic medial necrosis”を内在し,大動脈瘤,大動脈解離を高頻度に認める.大動脈二尖弁も,高頻度に大動脈瘤,大動脈解離を合併し193),Marfan 症候群と同様の大動脈壁所見を認める(レベルB)192).大動脈二尖弁を伴うことの多い大動脈縮窄も,同様の心血管系合併症を生じる(レベルC)192).チアノーゼ型先天性心疾患の一部,ファロー四徴,Fontan術後など肺動脈狭窄あるいは閉鎖を伴う疾患,総動脈幹,完全大血管転位,左心低形成症候群も,大動脈の合併症を伴うことがある(レベルC)192),194)-198)(表8).ファロー四徴は,多くの例で大動脈が拡張し,大動脈壁にcystic medial necrosisを認める(レベルC).しかし, 先天性心疾患に認められる大動脈拡張は,Marfan症候群と比べ大動脈解離,大動脈瘤の頻度が低く,大動脈壁変化はより軽度である192),199).肺動脈狭窄,閉鎖を伴うチアノーゼ型先天性心疾患は,修復以前は肺動脈血流量に比べ大動脈血流量が多い.特に,大動脈肺動脈吻合術を行った場合は,上行大動脈血流量は増加する.この血行動態的特徴と組織学的異常に基づく大動脈のstiffness(硬度)の異常も,大動脈拡張の成因の一つである200)-203).ファロー四徴で肺動脈狭窄の程度が強いほど,大動脈拡張の程度が強い.進行性大動脈拡張の危険因子として,ファロー四徴では男性,右大動脈弓,高度肺動脈狭窄(肺動脈弁閉鎖),修復時高度チアノーゼ,修復術時高年齢,大動脈肺動脈吻合術の既往,長期吻合術後期間,修復時大動脈高度拡張が挙げられる194),199)(レベルC). ファロー四徴の大動脈拡張例の50.9 % にfibrillin-1のexonic DNA variantsを認めたとの報告があり,ファロー四徴でも大動脈拡張とfibrillin-1との関連が示唆されている204).大動脈拡張を伴う先天性心疾患は,大動脈壁の中膜嚢胞性壊死による血管弾性の低下と血管硬度の上昇を認める200)-203).この所見は,大動脈弁閉鎖不全を増悪させると同時に,体心室収縮機能,拡張機能,冠動脈潅流を悪化させる203).これらの疾患群は,大動脈拡張という形態的な特徴だけではなく心血管機能異常を伴う新たな疾患群,すなわちAortopathyとしてとらえられるようになった. この拡張性病変は,単に狭窄後拡張(post-stenotic dilatation)という血行動態異常に基づく疾患群ではなく,内在する大動脈壁異常192),193)に起因する.
表8  大動脈拡張を伴うことの多い先天性心疾患(Marfan症候群は除く)
Ⅰ 総論 > 6 大動脈拡張 > 1 大動脈拡張の頻度,成因
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)