1 はじめに
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 2008年DanaPointでの第4回肺高血圧シンポジウムでは,先天性体肺短絡関連の肺動脈性肺高血圧(PAH)の臨床分類の項目に,A.Eisenmenger症候群,B.中等度以上体肺短絡にともなうPAH,C.小短絡に伴うPAHのほか,Dとして先天性心疾患は修復されているにもかかわらず術直後から持続する,あるいは数か月~数年後に再発するPAHという項目が加えられているが,これに対する特別な診断法治療法は記載されていない.またPAHが再発するメカニズムも解明されていない.したがって現時点において術後遠隔期のPAHに対しては,特発性肺動脈性肺高血圧(IPAH)と同様の管理にとどまる182)

 肺血流増加型疾患では,基本的に修復手術によって肺血管床に対する機械的ストレスや乱流による内膜への刺激は減少する.そのため肺高血圧(PH)への影響は緩和される183).したがって,心房中隔欠損を例に取れば全肺血管抵抗が7~ 15U/m2(Wood単位/m2)というような高度のPHの場合にも,閉鎖手術を選択した例の方が保存的治療よりも臨床的悪化が少ないという報告もある184).しかし,少数例ではあるが修復術後にPHの進行がみられる.また肺血流減少型疾患でも,微小血栓による閉塞性病変や血管床自体が低形成なため術後にPHが生じる例もある183)

 術後に進行するPHの原因として,(A)修復の対象となった先天性心疾患による血行動態的解剖学的特徴である場合と,(B)それ以外に肺血管病変を引き起こす素
因がある場合が考えられるが,一般的には原因の同定は困難である185)

 (B)の素因の一例として,Robertsらの報告では40人の成人と66人の小児のCHDに伴うPAHを対象としての解析の結果,BMPR2 遺伝子の変異が各3人計6人に認められている.これは術後PAHの一部の説明となるかも知れない.ただし我が国では類似の報告はない186)

 完全大血管転位に対するMustard手術では,遠隔期に7%の症例がPHを発症すると言われている.その危険因子として2歳以上での手術,心室レベルもしくは大血
管レベルでの短絡,術後早期軽度肺動脈圧上昇などが挙げられているが181),これが前述の(A)として良いのかは不明である.いっぽう,肺静脈チャンネルのバッフ
ル狭窄は還流障害による肺高血圧の原因となるが,これは術後に新たに生じた問題である.

 いずれにせよ,術後重症のPHが認められる場合,原疾患の影響のほか,さらに,未手術のEisenmenger症候群にみられる安全弁(逃げ道)としての短絡も失われ
ているため,慎重な対応が要求される188)
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先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)