4 慢性心不全の薬物治療
 治療の基本は,心血管保護療法(心血管リモデリングの抑制)による患者の症状・予後の改善である.分子循環器病学の進歩は,心不全時の病態に影響する神経体液性因子の重要性を明らかにし,心血管リモデリングがβ遮断薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),ET受容体拮抗薬により抑制されることを示した.一方,成人を対象として大規模臨床試験によるアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やβ遮断薬などは心不全患者の症状・予後を改善することが示されている77)-81).これらの事実は心血管リモデリングの抑制,交感神経賦活に基づく心血管系の負荷軽減を目指す治療の妥当性を示す.最近の知見から,無症状であっても心室収縮不全を示す心疾患患者ではACEI,β遮断薬の投与が推奨されている82),83).しかし,高度の心室機能障害例への投薬には十分な監視が必要である.K保持性利尿薬スピロノラクトンも予後改善に有効性が示され,その抗アルドステロン作用が注目されている77).さらに,ARBも心不全治療に有効であることが明らかにされた79).このように成人では慢性心不全治療指針として,ACEI,ARB,およびβ遮断薬が無症候性の時期から使用が推奨されている54).いっぽう,小児に対して上記の成人に対する治療法がそのまま適応できるかは不明である.慢性心不全の病因が異なること,大規模臨床試験によるエビデンスがないことなどがその理由である.しかし,大規模臨床試験のない先天性心疾患領域でも,ACEIやβ 遮断薬の臨床試験が行われ始めている84)-88)Fontan術後や右心室を体心室とした成人患者でACEIとARBの治療効果をみている85),86)が,運動能の改善には至っていない.ただし,これらの報告では使用期間が短い点など,今後,さらに検討すべき余地がある.
Ⅰ 総論 > 3 心不全 > 4 慢性心不全の薬物治療
次へ
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)