2 先天性心疾患術後の遺残症,続発症,合併症
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 現在,ほとんどの疾患に対して修復手術が可能となり,良好な手術成績が期待できるようになっている.中でも動脈管開存,心房中隔欠損,心室中隔欠損などの単純疾患では,通常,術後には完全に,あるいはほぼ完全に治癒した状態が期待できる.また,ファロー四徴,両大血管右室起始,完全大血管転位などの多くの複雑疾患についても適切な時期に修復手術が行われていれば,良好な手術成績が得られるようになっている.さらに,単心室や三尖弁閉鎖,近年では左心低形成症候群などの重症複雑疾患についても,Fontan術などのチアノーゼを消失させる手術が普及し,比較的良好な手術成績が期待できるようになっており,現在もなお長期遠隔期におけるより良好なQOL 獲得を目指した改良が積み重ねられている.

 長期生存例の増加に伴い,疾患ごと,術式ごとにおける術後の問題点の特徴が明らかになり,よりよいQOLを求める観点から再手術などの侵襲的治療が積極的に考慮されるようになっている.すなわち,単純疾患以外の多くの疾患では,手術に使用した人工物の変性や成長に伴う形態変化などによる狭窄病変や弁機能不全が進行することがある12),13).これは不完全な手術手技に起因する短絡や狭窄の残存・再発病変のみならず,各疾患,各術式に特徴的なわずかな形態・機能異常が,適切な手術にもかかわらず進行して,治療を必要とする病変になる可能性があることを示している.この観点から,多くの先天性心疾患に対する治療は,根治手術であっても必ずしも完全な治癒を保証するものではないと言える.以前からよく用いられていた,完全な治癒を意味する「根治術」という言葉は近年使われなくなりつつあり,代わって修繕するという意味で「修復術」という言葉が多く使われている.例えばファロー四徴の修復術において,右室流出路狭窄のように術前からあったものが術後に残存するものは「遺残症」として,肺動脈弁逆流のように術前にはなかったものが術後に新たに生じるものは「続発症」として理解され,すべての複雑疾患にはそれぞれ特徴的な遺残症,続発症が存在する.主なものは遺残短絡,左右心室の流出路や大血管,大静脈などの狭窄,半月弁や房室弁の逆流や狭窄である.また,心房や心室に対する手術の直接侵襲や残存する圧・容量負荷に関連する不整脈が,再手術の対象になることもある14).これらが進行する要因は様々で,再建・形成箇所の成長に伴う変形,あるいは相対的成長障害,渦流などの血流異常による組織増殖や瘤化,人工物の硬化変性や膨隆,感染による二次的変性などがある.近年における高精度の診断技術により,わずかな遺残症,続発症でも診断可能であるが,必ずしもすべてに治療が必要ではなく,再手術やカテーテル治療などの適応になるのは一部であり,初期治療と同様,一定の適応基準が確立されつつある.Fontan術については,術後のFontan循環そのものが正常な循環ではないことから,蛋白漏出性胃腸症,肺動静脈瘻などの特徴的な合併症15),16)が知られている.修復後遠隔期に外科的治療が必要である疾患においてもほとんどの疾患は低い危険率で治療がなされるが,Fontan術後遠隔期の外科治療介入はいまだに1 割前後の危険率を伴うとされている17)

 不整脈は先天性心疾患術後に最も高頻度にみられる遺残・続発症である.自覚症状を伴わないことが多いが,中には突然死18),19)の原因になりうる場合があるので,単純疾患を含めて長期的かつ定期的な不整脈検索が不可欠である.

 非特異的な合併症として,脳神経系の後遺障害20),横隔神経麻痺,反回神経麻痺,胸郭の変形,ケロイドなどがあり,それぞれ患者のQOL 低下要因,あるいは社会適合性を低下させる原因となる可能性がある.開心術の手術侵襲は大きく,成人心臓手術における一時的な術後高次機能障害が報告されている.先天性心疾患術後においても開心術直後には呼吸負荷が増大するため,特に低年齢児では一時的な運動精神発育遅延が見られることがある.一定時間以上の完全循環停止施行例,術後急性期における一時的ショック,高度の循環不全や低酸素血症,循環不全の遷延,長期挿管などが脳神経系後遺障害に関連することがあり,新生児・乳児などの低年齢児では出血などの脳合併症も生じやすい19),21).反面,その後の経過が良好であれば,特に若年者ほど回復する可能性も高いと考えられている.いずれにせよ,これらの遺残症,続発症,合併症の発生・進行状態については個人差が大きく,またそれぞれの病変の長期経過については現在エビデンスとして把握できているものはまだ少なく,先天性心疾患の術後における長期の経時的経過観察が重要かつ不可欠と考えられる.
Ⅰ 総論 > 1 経過観察の必要性 > 2 先天性心疾患術後の遺残症,続発症,合併症
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)