3 術後の経過観察のポイント
先天性心疾患術後の状態は個人差が大きく,小児患者の特徴を十分に把握した上で行うことが望ましいこと,そして成長期から成人期以降にかけての極めて長期にわたる経過観察が必要になること,この2 点が大きな特徴である. また,小児では成長という成人にはない活発な生体活動があり病態変化が早いこと,異物に対する反応は成人よりも高度で,感染などの二次的影響を受けやすいため,自己組織を使用しても形成・再建された直接侵襲部位と非侵襲部位との発育バランスが異なることにより形態的変化が進行する可能性があること,などの特殊性がある.これらの点で経過が良好であっても,複雑疾患では成長期における定期的な経過観察は不可欠である. 症状を自ら表現できない乳幼児における経過観察では,理学所見や検査所見に加えて,両親の病状理解と経過観察に対する協力が重要である.既述したように疾患や術式に特徴的な問題点のほかに,個々の特徴をふまえた観察のポイントを両親に分かりやすく説明する必要がある.両親の理解不足や誤解は,小児患者の身体発育と精神発育にも大きな影響を与える可能性がある. 幼年期,学童期については,程度の差こそあれ,成長のためには適正な身体運動が必要不可欠であることを考慮すると,患者の術後心肺機能に見合った運動をむしろ積極的に促進すべきである.成長後の社会的な自立の重要性を考慮すると,体育や学校行事,課外活動への参加についても過度に制限を加えるべきものではない.いっぽう,心不全や突然死の可能性がある不整脈が疑われる場合には,十分な説明と対処が必要である. 小児患者が小学校高学年から中学生以降になって自我に目覚める時期においては,患者の性格に応じた管理指導が必要になり,経過観察における状態把握は親の主観を介さない,本人とのコミュニケーションも重要になる.ことに運動時の症状などは,親も理解していないことが少なくない.特に危険因子の多い場合を除いて,将来の自立促進を意識した指導を行い,再手術の可能性についても,不安を助長するような指導よりも,自己の目的意識を持たせるような説明が望ましい. 成人後の患者については,成人としての本人の意思を尊重した診療が不可欠になる.手術の危険率が高かった時代の手術例では,手術の完成度が低いことから遺残症や続発症の可能性が高く,とりわけ経過観察の重要性が高い.反面,再手術に対する過度の恐怖感がある可能性があり,症状把握には注意を要する場合がある.成人後の先天性心疾患術後患者管理には,患者意識への配慮や生活習慣病予防の観点などから,専門性を備えた独自の管理体制を構築することが先天性心疾患修復後患者のQOLの向上につながる22) .
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)