1 先天性心疾患に対する外科治療の変遷と術後状態
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 我が国における先天性心疾患に対する手術は,1951年,動脈管開存結紮術の成功第一例に始まり,5年後の1956年にはファロー四徴に対する人工心肺を用いた
開心術の成功例が得られ,以来,半世紀以上が経過している.

 この間,絶え間なく各疾患における術式の開発・改良が進展していることは言うまでもないが,関連技術の進歩も時代とともに進んでいる.すなわち,1970年代から1980年代にかけての人工心肺装置の改良と膜型肺の導入は長時間体外循環を可能にし,心筋保護液の導入と改良は術後の心機能温存に大きく貢献した.1980年代から1990年代にかけての限外濾過1),2)の導入などの開心補助手段の進歩は,特に若年患者の術後状態を著しく改善させ,その結果,重症疾患や新生児・乳児期早期手術の安全性が向上し,1990年代に入って手術全体に手術時期の低年齢化と適応拡大が進行した.さらに,成長する可能性がある自己組織を用いた再建手術3)-5)の導入により,複雑疾患に対する修復手術時期も低年齢化を促進させ,この低年齢化や小切開による低侵襲手術の普及は術後小児患者の精神的負担を軽減させた.2000年代になると先天性心疾患外科治療の標準化が進み,新生児期手術成績は重症疾患を含めて大きく改善した6),7).この流れの中で先天性心疾患患者の生命予後は著明に向上し,現在までに累積した先天性心疾患術後患者は全国で40万人以上に上ると推測される8)

 過去60余年の間,手術成績が向上するにつれて,手術時期と術式選択の主眼は,救命という姑息的な目的から,遠隔期におけるQOL の向上という,より高い根治
性の獲得が重要視されるようになり,時代の変化とともに全体として手術の方法や考え方は大きく変化してきた.その結果,初期の手術を受けた患者では,術前から
の,あるいは手術に直接起因した機能障害や不完全な手術に関連した多くの形態・機能異常が見られることが少なくなかったが,最近の手術では多くの疾患で新生児期から修復手術完結までの時期が短縮し,術後心肺機能は著しく向上している9)

 先天性心疾患術後においては,疾患,術式の種類による違いのみならず,手術時年齢,補助手段の種類,再建に用いる補填材料の種類,使用した血液製剤の種類など,時代の変遷に関連した多くの要因により,心肺の形態的・機能的状態や関連臓器の障害の有無は大きく異なり,さらには手術に関連して受けた説明内容についても時代背景が関連するので,精神神経発達や社会的影響を含めた個々の患者の術後状態は,たとえ同じ疾患,同じ術式の中でも千差万別であるといえる.

 したがって,個々の術後患者を診る場合には,これらの外科治療手段の改良の歴史の中で,どのような背景で外科治療を受けたのかを多角的に把握することは重要と思われる.そして,根治性の高い一部の軽症疾患を除いて,小児期から成人期に至るまでは特に慎重な経過観察ならびに専門施設での治療10),11)が必要であり,さらには中年期から老年期に至るまでの極めて長期にわたる経過観察も今後は重要になると考えられる.
Ⅰ 総論 > 1 経過観察の必要性 > 1 先天性心疾患に対する外科治療の変遷と術後状態
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)