改訂にあたって

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 近年,先天性心疾患の手術成績は,心エコー検査を中心とする種々の非侵襲的検査ならびに心臓カテーテルによる正確な診断や心臓外科手術の進歩によって大きく改善し,最重症のチアノーゼ型心疾患においても最終手術後の長期生存例が増えてきており,その結果の顕著な現れが成人先天性心疾患患者の増大である.いっぽう,重症あるいは複雑な先天性心疾患にしばしばみられるように,最終手術(definitive repair)終了後であっても,各々の疾患に特徴的な,術前から存在し術後にも残存する遺残症や術後に新たに生じる続発症を持つ患者には,これらを十分認識したうえで,事故を回避しつつ,しかもQOLを損なわないように経過観察を行うことが肝要である.さらに,先天性心疾患術後においては,疾患や術式の種類による相違のみならず,手術時年齢,補助手段,心筋保護法,再建に用いる補填材料,使用した血液製剤など,時代によって異なる種々の要因によって,心肺の形態的・機能的状態や関連臓器の障害の有無や程度に大きな差異があり,個々の患者の術後状態は,同じ疾患,同じ術式であっても千差万別であることに留意する必要がある.このように種々の要素が複雑に絡み合う術後の状況下にあって,しかも,患者の増加が顕著であることを勘案すると,術後遠隔期の管理や再侵襲的治療の適応ならびに方法についての標準的ガイドラインを提示する意義は大きいと言える.

 本ガイドラインは,見やすく簡単に理解でき,多くの医療関係者に役立つガイドライン作成を基本方針とし,各疾患に共通する項目を総論で述べ,疾患に特徴的な問
題を各論に記載した.適応基準クラス分類とエビデンスのレベルについては後に示す.前述したように,現在,先天性心疾患術後症例は増加し,これに比例して再侵襲的治療が必要な症例は増えてきており,疾患によっては数年前と比較して集積したデータの報告が増加した症例が少なくない.したがって,今回これらを反映することを主眼に部分改訂を行った.また,項目については前回のガイドラインを踏襲したが,新たに“大動脈拡張”を追加し,一部項目に名称を変更したものがある.この他の項目の追加として“左心低形成症候群”が候補に挙がったが,現状では長期生存症例数などに課題があるため,ガイドラインとして提示するには時期尚早であるとして,次回以降の改訂での検討に期待することになった.

 ガイドラインは,できるだけ多くの症例を分析した確固たるエビデンスをベースに作成するのが好ましいが,先天性心疾患は,多くの構造異常を含んでおり,構造異
常の組み合わせも複雑で,長期予後について比較的多数の症例数を対象とする分析は一部の疾患を除いて少ない.また,重症疾患の中には近年ようやく長期生存例がでてきたものがあることなどから,術後遠隔期の合併症の発生頻度や侵襲的治療の適応についての明確なエビデンスに欠けることが多い.したがって本ガイドラインでは,エビデンスのレベルとして多数を占めたのがレベルC(多くの専門家の一致した意見)であったが,本ガイドライン作成班会議において本邦の小児循環器ならびに小児心臓外科のエキスパートが,多数の専門家の一致した意見であることを確認しているので,十分信頼できるものと考える.これを参照するにあたって,先天性心疾患に対する外科手術は,手技,アプローチ,心筋保護法などが大きく変遷しており,今後遠隔期成績も向上することが予想され,術後の管理や再侵襲的治療の手法も変化する可能性があることを念頭に置いていただきたい.

適応基準クラス

クラスⅠ: 有用性・有効性が証明されているか,見解が広く一致している.
クラスⅡ: 有用性・有効性に関するデータあるいは見解が一致していない場合がある.
    Ⅱa: データ・見解から有用・有効である可能性が高い.
    Ⅱb: データ・見解から有用性・有効性がそれほど確立されていない.

エビデンスのレベル

レベルA: 複数の無作為介入臨床試験やメタ分析で実証されたもの.
レベルB: 単一の無作為介入臨床試験や,無作為介入でない臨床試験で実証されたもの.
レベルC: 多くの専門家の意見が一致したもの.
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)