①術後肺静脈狭窄

 TAPVC術後は少なくとも数年は定期的な超音波検査を行い,吻合部における加速, 連続性血流,PHを認めPVOと診断されれば,積極的な外科治療を視野に入れ
た早期検討が望ましい(クラスⅡb,レベルC).CT,MRI 検査は術式決定の参考となる.術後PVOに対して肥厚した内膜切除,心房壁614)や心膜などを用いた肺静
脈のパッチ拡大,ステント留置615)やバルーン拡張術などの方法では,手術死亡および再狭窄を含む非成功率は60 % 前後と報告されている( レベルC)609),610),612).Lacour-Gayet らは,sutureless in situ pericardium repairを1995年に導入し616),その後再々手術2例を含む計7例に同法を用いて5 例を救命した610).Caldaroneらは13例の術後PVOを経験し,両側狭窄9例中3例を救命したが,内2 例でsutureless techniqueを用いた617).Devaneyらは術後PVOの22例中11例にsutureless techniqueを用い,10例の生存を報告した609).術後PVOの外科治療におけるsutureless in situ pericardium repair の優位性を示す報告は多く618),検討に値する(クラスⅡb,レベルC).

②術後肺高血圧

 八巻らは,60例の合併心疾患のないTAPVCにおける肺動脈や肺静脈の中膜平滑筋増殖ならびに内膜線維性肥厚を病理学的に検討し,前者は術前のPHと相関する可逆的病変であり,後者は臨床的に重大なものではなく,したがって生後6 か月以内では術前心臓カテーテル検査によるPHの評価は不要であり,PVOを発症しなければ術後PHは改善すると報告した619).単独TAPVC術後100例の平均5.9年の経過観察で,64%が極めて良好な,27%が良好な,残る9%も普通の生活を送っており,学校生活に関しても40%で普通以上,29%で普通,4%で普通以下と極めて優れた結果の報告がある620).また術後遠隔期左室拡張末期径,肺動脈圧などの正常化を示す報告も見られる621).しかしTAPVCではリンパ管拡張を伴う症例が多く,加えて間質浮腫が進行した場合の予後は不良であり606),619),622),その極型ともいえる共通肺静脈閉塞を伴う症例の救命の報告は極めて少ない623).リンパ管拡張,diffuse pulmonary vein stenosis 606),肺小動脈低形成例624),625)を伴う症例では,術後PHが残存し遠隔予後は不良である.海外では,肺移植626)あるいは心肺移植の適応を検討されることもある.

③不整脈

 TAPVC術後は,心房切開等の手術手技と関連して,洞機能不全や上室性頻拍を生じる可能性が予想される.Byrunらは,平均年齢35か月の8例のTAPVC術後症例に電気生理学的検査を行い,洞機能,房室結節機能ともに問題を認めなかったが,他に1例を徐脈で失っており,潜在的なPVOの発見,左心系閉塞病変の評価,電気生理学的検討の目的で,術後の心臓カテーテル検査を推奨している627).術後洞性徐脈の報告は他にも見られ621),遠隔期に12誘導心電図,ホルターによって不整脈を検討することが望ましい(レベルC).
5 術後合併症への対応
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Ⅱ 各論 > 7 総肺静脈還流異常 > 5 術後合併症への対応
 
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)