術後遠隔期に問題となる合併症は,再縮窄,大動脈瘤の形成,大動脈解離や破裂,高血圧の残存ならびに動脈硬化性病変(脳血管障害や冠動脈疾患)の早期発症,感染性心内膜炎である.ダクロンパッチを用いたパッチ形成術では,遠隔期大動脈瘤形成率が高いとされている569)-572)

 縮窄の修復後であっても,平均余命は正常化せず,平均16歳で外科治療を受けた患者の10年,20年,30年の生存率はそれぞれ91%,84%,72%と報告されている573).早期外科治療により,遠隔予後は改善するとされるが574)-576),平均5 歳で外科治療を行った場合でも,20年,40~50年生存率はそれぞれ91%,80%と云われる575),576).遠隔死亡の70%は心血管合併症によるとの報告がある573),575),576)

①侵襲的治療の適応

 再縮窄や動脈瘤診断のgold standardは心臓カテーテル検査により計測した圧較差と大動脈造影であり,再縮窄部を介して20mmHg以上の圧較差を認める場合,
20mmHg未満であっても形態的に有意な縮窄で縮窄前後に豊富な側副血管を認めるか,明らかな左室機能の低下を認める場合(クラスI,レベルC)383),569),
径50mm以上の紡錘状動脈瘤,50mm未満であっても拡大傾向のある嚢状動脈瘤や仮性動脈瘤では,侵襲的治療を検討すべきである(クラスⅠ,レベルB)577)-581)

 近年,再縮窄の形態診断にMRI やMSCTが広く用いられている.病変部前後径の50%未満,縮窄部径/横隔膜位大動脈径
0.5を再縮窄と定義した報告が見られる.上下肢で明らかに20mmHg以上の血圧差があり,MRI またはMSCTにて明らかな再縮窄を認める場合やこれらにより動脈瘤の形態やサイズが明らかな場合に
は,心臓カテーテル検査を実施しないこともある(レベルC)557),566)-568),582)

②侵襲的治療の方法

 再縮窄や動脈瘤には外科治療またはカテーテル治療が行われる.

1)外科治療
 動脈瘤に対しては,瘤切除+人工血管置換または端々吻合,再縮窄に対しては,再縮窄部切除+人工血管置換または端々吻合,パッチ形成術,extra-anatomical bypassなどが行われる(クラスⅠ,レベルB)556),558),583)-586).

 人工物を用いた外科治療後6 か月間は,アスピリンなどの抗血小板薬を投与する(クラスⅡa,レベルC).

2)カテーテル治療
 A)動脈瘤には,カバードステントが選択されることがある.瘤の近位および遠位に分枝閉塞を来たさない十分なlanding zoneがあることが条件となる.現時点にお
いて我が国で使用できるのはself-expandable covered stent であるが, 欧米ではballoon expandable covered stentも用いられている587)-590)

 B)再縮窄
 B- 1 限局性で大動脈峡部低形成を伴わない再縮窄では,年齢に関わらずバルーン拡大術を試みる価値がある(クラスI,レベルC)383),591),592).
 B- 2 成人の大動脈径(通常20mm以上)まで安全に拡大留置できる場合には,ステント留置の適応がある(クラスI,レベルB).
 B- 3 後拡大により成人の大動脈径まで拡大できるステントを安全に留置できる場合,または,バルーン拡大術が無効の場合で成人の大動脈径まで拡大しうるステントを留置できる場合には,ステント留置が考慮される(クラスIIa,レベルC)383),593),594)

 Long segmentの再縮窄でバルーン拡大術の効果が期待できない場合,ステント留置を選択するか外科治療を選択するかについては,選択しうる外科治療法の効果やリスクなどとの比較を行って検討すべきである.

 カテーテル治療後6 か月間は,アスピリンなどの抗血小板薬を投与する場合がある.
5 術後の再侵襲的治療
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先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン
(2012年改訂版)

Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)