①不整脈 1)発生頻度と発生機序 Fontan術遠隔期に発生する不整脈としては,心房粗細動,上室頻拍などの上室頻拍性不整脈と洞機能不全による徐脈性不整脈の頻度が高く,重篤な心不全や突然死の原因となる.上室頻拍性不整脈の発生機序としては過大な心房切開と縫合線,長期にわたる心房負荷が関与し,心房内リエントリー,異常自動能により惹起されると考えられる123),692),693) .他に,心房錯位などの解剖学的要因,心機能低下や房室弁逆流などの血行動態的異常も要因となり得る.その発生頻度は10~ 45%で,経年的に高頻度になり,術式別にはTCPC法に比べAPC法が高率である694)-698) .中澤らの多施設研究報告では術後12~13年以後にAPC法の心房頻拍性不整脈の非発生率が低下している699) .LT法とEC法の比較では現在のところ両者の優劣は明らかでないが,心房内縫合線が少ないEC法の発生頻度が低いとする報告が多い700)-704) .洞機能不全の発生機序としては手術時の洞結節血流障害,慢性的伸展などが考えられている.発生頻度は13~ 16%で,洞結節付近に手術侵襲が加わる段階的Fontan術で好発するとされ,術後遠隔期にはその頻度は増加する705),706) .TCPC法の術式による洞機能不全の発生頻度の差は明らかでない702),706),707) .2)診断と再インターベンションの適応 詳細な電気生理学検査(EPS)を行い,リエントリー,異常自動能の鑑別を行う708),709) .心房内マクロリエントリー性頻脈(IART)の頻度が高い.特に新たに発症した心房頻脈は原因究明のための総合的画像診断を急ぐ必要がある(クラスI,レベルC).カルディオバージョンや不整脈薬物療法が奏効しない難治性心房頻拍および心房粗細動の症例,心房拡大・心房負荷に伴ういわゆるfailed Fontan症例で臨床症状がある場合は再インターベンションの適応となる.3)術式選択と予後 カテーテル治療としては高周波アブレーションが施行される119),709),710) .高周波アブレーション単独治療は急性期には50~ 70%の有効性があるが,術後6か月で50%に再発が見られると報告されている119),708)-710) . 外科的アプローチとしては,心房負荷軽減のためFontan revision( TCPC conversion)が行われ,心房拡大が著しい場合には心房壁切除術が併用される14),711)-713) .Fontan revisionの術式としてはEC法の報告が多いが,LT法と手術成績に差がなかったとする報告もある714) .Fontan revisionは運動耐容能の低下,胸腹水貯留などの臨床症状は改善するが,revisionのみでは心房頻拍の再発率が高いため, 術中冷凍凝固法または高周波法,Maze術などの不整脈外科治療が同時に行われる必要がある(クラスIIa,レベルC)715)-718) .術後洞機能不全に対してはペースメーカ植込みを検討する(クラスIIa,レベルC)719),720) .なお,revision後特にEC conversion後はカテーテル治療のアプローチが困難になることに留意すべきである.今後,Fontan revisionの適応基準の確立とともに,基礎疾患の解剖あるいは不整脈の種類に即した術中アブレーションあるいはMaze術の術式開発が必要である.②蛋白漏出性腸症 1)発生頻度と発生機序 蛋白漏出性腸症(PLE)は腸管からの過度の蛋白漏出を特徴とする症候群である.主な臨床症状は全身浮腫,胸腹水,慢性下痢であり,電解質異常,低ガンマグロブリン血症,脂肪吸収異常,凝固系異常などの徴候を示す.Fontan術後のPLEは4~ 13%に発生するとされ721) ,発症時期は様々である.PLE診断後の予後は不良であり,診断後に50%は5年以内に死亡し,80%は10年以内に死亡するとされる722) .発生機序は不明な点が多いが,慢性の低心拍出および高静脈圧により腸管のリンパ管拡張が生じ,その結果アルブミン,蛋白,リンパ球などの腸管内漏出が発生すると考えられている723) .しかし,高い静脈圧のfailed Fontan例で発生せず,静脈圧が低い良好なFontan循環症例で発生することがあり,血行動態だけでは本症の発生機序を説明できない.また,心室形態やFontan術式による発生頻度にも明らかな差はない724) .Plastic bronchitisは肺におけるPLE類似の病態と考えられ,急激かつ重篤な呼吸不全を来たし,発症後の5年生存率は50%とする報告もある725),726) .2)診断と再インターベンション適応 PLEの確定診断は便中のα 1 アンチトリプシンクリアランス試験による.発症が確認されたら詳細な血行動態の検討を行い,Fontan循環における連結路狭窄病変,心室機能不全,房室弁逆流および体肺副血行路を評価する.ステロイド療法727) ,ヘパリン療法728) ,体肺副血行路のコイル塞栓などの内科的治療が無効なものでは,全身状態が悪化する前に再侵襲的治療を検討する724) .3)術式選択と予後 外科的アプローチとしては合併残存病変に対する修復術,外科的あるいは経カテーテル法によるFontan開窓729),730) ,Fontan revision713) ,ペースメーカ植込み151),731) などが試みられているが,難治性であり無効例も多い.また,高度心機能低下例では再手術死亡率が高く,手術非適応とされることが少なくない724) .いっぽう,心移植によりPLEが改善したとする報告は多い732)-734) .他の治療法に抵抗性のPLEは,心移植の適応になる可能性がある(クラスIIb,レベルC).③血栓塞栓症 Fontan術後の血栓塞栓症は3 ~ 20%に発生するとされ,その発症時期は術後急性期から遠隔期まで様々である735)-737) . 発生部位は体静脈( 上下大静脈, 右房,TCPC連結路,肺動脈)および体動脈である.血栓塞栓症の発生機序として,解剖学的にはFontan循環系の人工材料,緩徐な静脈内血流,拡大した心房内血流うっ帯,左右短絡遺残,肺動脈盲端の残存,上室頻拍性不整脈などが誘因とされる738),739) .Fontan循環の過凝固状態の機序としてはProtein Cなどの凝固線溶系因子の血中濃度減少が関与すると報告されている740),741) .血栓塞栓症の予防法としてはアスピリンによる抗血小板療法やワルファリンによる抗凝固療法が行われているが,両者の優劣に関しては今後のランダム化比較試験が必要である738),742)-744) .心房内短絡,心房内血栓,心房頻拍あるいは血栓塞栓症の既往がる場合には,ワルファリンの投与を検討する(クラスI,レベルC).④低酸素血症 Fontan術後の低酸素血症は,baffle leak,体心房への側副静脈路の形成,肺動静脈瘻形成により発生する.側副静脈路はカテーテル治療あるいは外科的アプローチにて閉鎖する.肺動静脈瘻はGlenn術,特に下大静脈欠損に対するKawashima術後に好発し745),746) ,その形成にはhepatic factorの関与が考えられている747) .肺動静脈瘻はFontan術後においても散見され,進行性の低酸素血症を来たす予後不良の合併症である.その成因として下大静脈血流が一側肺動脈に偏って還流することが示唆されている748) ,肝静脈血が左右肺動脈に均等に潅流されるように下大静脈血流連結路を再吻合する術式749),750) や心移植751) により低酸素血症が改善したとする報告もあるが,難治性であり無効例も多い.⑤心室機能不全 Fontan術後遠隔期の心室機能不全は比較的高頻度に発生し,その原因は多岐にわたる.術前のチアノーゼ,心室容量負荷および心室流出路狭窄の存在,術後の急激な前負荷減少に伴う心筋重量容積比の増大と心室拡張能低下,心室同期異常,Fontan循環の後負荷増大などの関与が推測されている.心室形態別には右室性単心室で心室機能不全の発生頻度が高い752) .内科的薬物療法としてはACE阻害薬と利尿薬などの投与を検討する(クラスIIb,レベルC).侵襲的治療法として,両心室ペーシングや多部位ペーシングによる心室再同期療法の有効性が報告されている111),731) .心室機能低下を伴う難治性不整脈や強心薬依存状態例では心移植の適応となる可能性がある(クラスIIb,レベルC)744),753) .
2 術後合併症への対応
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)