先天性心疾患の修復手術は欧米で始まったため,欧米は先天性心疾患患者の長期管理に対する取り組みが日本よりも早い329)-335) .成人先天性心疾患を長期管理する上での欧米と日本との大きな違いは,欧米では循環器科医,小児循環器科医,心臓血管外科医,内科,産科,精神科医などを含んだチーム医療を行う成人先天性心疾患診療専門施設があり,その中心は,小児循環器科医ではなく循環器科医であるという点である330),336),337) .先天性心疾患は,疾患の種類が多いだけでなく,解決すべき問題点が多彩であるため,先天性心疾患診療の訓練を受けた循環器科医が中心となり,小児循環器科医,小児心臓外科医と共同で運営し,他部門の専門医と協力したチーム医療を行っている.このため,専門施設は総合病院ないしは大学病院に設けられ,研修,教育システムも確立している.しかし,これらの専門施設数は総患者数から比べるとはるかに少なく,患者の需要に応じられていないのが現状である(レベルC)333)-335) . 日本の先天性心疾患管理施設も1990年代後半に成人期に対応した診療部門が設立されるようになった.しかし,ほとんどの場合,主体は,小児循環器科医,心臓血管外科医のみで構成されている333)-335) .日本の特殊性を加味した場合,今後,以下のような診療,管理方法が考えられる. 複雑先天性心疾患は,心臓形態,病態が特殊であり,小児循環器科医が修復術後も継続して診る必要がある.しかし,成人先天性心疾患は,心不全,不整脈,突然死,妊娠出産,就業,心理社会的問題など成人心疾患の分野と共通した問題点が多い.さらに,加齢とともに,一般成人と同様,生活習慣病,消化器疾患,泌尿器科的疾患など,心臓以外の疾患も少なくない.この場合も,背景として先天性心疾患を持つため,病態が修飾されることがある.さらに,心臓病以外の手術の際も,心疾患のケアを同時に行わなければならない.このように,成人先天性心疾患は,小児科医のみで扱う疾患ではなく,成人の疾患にも習熟した循環器科医との共同診療が不可欠と考えられている(レベルC).また,こども病院という子ども中心の診療形態ではなく,成人を中心とした診療形態,あるいは,成人期まで継続して診療を行える診療施設が必要である(レベルC).循環器科医は,心臓病の形態,機能,病態に習熟するため,小児循環器科医の,小児循環器科医は,成人期の問題点に習熟するため,循環器科の訓練あるいは知識を必要とする.また,小児循環器科,循環器科だけではなく,一般内科,一般外科,歯科疾患の合併,妊娠出産も多いため,それらに対応できる診療体制が必要である(レベルC).他科との連携が不可欠であるという成人先天性心疾患の性格から,中心となる診療施設は,総合病院あるいはこれと連携可能な病院を中心に開設する必要がある.長期的には,循環器科医,小児循環器科医,心臓血管外科医の長所を取り入れた共同運営が望まれる形態であり,そこに内科専門医,産科,麻酔科,病理などの専門家が参加できるシステムが必要である( レベルC)330),335),338) .また,循環器科,小児循環器科のいずれを背景とした場合でも,成人先天性心疾患を専門に診る医師の教育と養成が急務である326),338) .
2 経過観察を行う際に必要な診療施設
先天性心疾患術後遠隔期の管理・侵襲的治療に関するガイドライン (2012年改訂版) Guidelines for Management and Re-interventional Therapy in Patients with Congenital Heart Disease Long-term after Initial Repair(JCS2012)